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2025.08.22
【せぼねの教室】第5回 手術がすべてではありません ― 保存療法(薬・注射・ヘルニコア)とその役割。
手術がすべてではありません ― 保存療法(薬・注射・ヘルニコア)とその役割。
福岡市で整形外科・脊椎外科診療を行う南川整形外科病院の連載コラムです。「痛み=すぐ手術」ではありません。多くの脊椎の不調は、まず保存療法(薬・リハビリ・注射)から段階的に改善を目指します。本稿では、保存療法の全体像と役割、神経ブロックや椎間板内酵素注射(ヘルニコア/コンドリアーゼ)の適応と注意点、そして手術へ切り替える目安まで、患者さんにわかりやすく解説します。
監修 : 脊椎外科専門医 塩川 晃章(しおかわ てるあき) / 南川整形外科病院 | 福岡・整形外科・脊椎外科
Three key points
まず知っておきたい3つのポイント
■ 保存療法の目的は「痛みの緩和・炎症の鎮静化・活動性の回復」。段階的に選べます。■ 注射(神経ブロック、ヘルニコア)は症状・画像・時期で適応が異なります。万能ではなく、効果には個人差があります。
■ 手術へ切り替える目安は、強い神経障害(筋力低下・排尿排便異常)や生活機能の重い制限が続く場合です。
さまざまな選択肢の検討
保存療法の全体像 | 基本スタンス
■ 目標 : 痛みと炎症を抑え、歩行や睡眠・仕事・家事など日常生活を取り戻す。■ 方法 : 薬物療法+リハビリ(姿勢・動作の見直し、体幹・股関節の安定化)+必要に応じて注射治療を組み合わせる。
■ 期間 : 急性期は数日~数週間、亜急性~慢性は数週間~数か月で評価し次の選択肢を検討。
「痛み」への選択肢
薬物療法 | 痛みと炎症を抑える
■ 鎮痛薬 : アセトアミノフェン、必要に応じてNSAIDs(胃腸・腎機能に配慮)。■ 神経障害性疼痛の薬 : しびれ・坐骨神経痛に用いる薬を症状に合わせて調整。
■ 筋緊張緩和薬 : 急性期の筋けいれんを緩める目的で短期使用することがあります。
■ 外用薬 : 貼付薬や塗り薬で痛みの局所を補助的にケア。
※内服は併存疾患や他剤との相互作用に注意し、医師と相談して進めます。
注射治療 | 痛みを抑え、活動再開を後押し
■ 神経根ブロック/硬膜外ブロック : 炎症のある神経まわりに薬剤を届け、痛みを抑制。診断的価値もあります。
■ トリガーポイント注射 : 筋膜性疼痛などの局所の痛みを和らげ、リハビリを進めやすくします。
椎間板内酵素注射(ヘルニコア/コンドリアーゼ)
■ 仕組み : 椎間板の主成分に作用して水分量を低下させ、神経への圧迫をやわらげることを期待する処置。
■ 向くケースの一例 : 腰椎椎間板ヘルニアで保存療法に反応が乏しく、突出が比較的保たれたタイプ(画像所見と一致)。
■ 流れ : 評価→適応の確認→注射→一定期間の経過観察。効果発現までに数週間かかることがあります。
■ 注意・限界 : 全ての方に有効ではありません。アレルギー反応や一時的な痛み増悪などの可能性があり、適応外のタイプ(大きな遊離片など)もあります。
手術へ切り替える目安
■ 筋力低下が進行、つま先立ち・かかと歩きができない等の神経脱落所見。
■ 膀胱直腸障害(排尿・排便の異常)、会陰部のしびれ。
■ 十分な保存療法でも日常生活(通勤・家事・睡眠)が著しく制限される状態が続く。
■ 画像所見と症状が一致し、手術により改善が見込めると判断される場合。
リハビリ&日常ケア | 保存療法を活かすコツ
■ 姿勢 : 座面は深く、骨盤を立てて腰に負担をかけない。スマホは顔へ近づける。
■ 動作 : 荷物は体の近くで持つ。ひねりと前屈の同時動作は避ける。
■ 運動 : 痛みが落ち着いたら、体幹安定化(腹横筋・多裂筋)、股関節・殿筋のトレーニングを段階的に。
■ 睡眠 : 寝具や枕の高さを見直し、痛みの少ない体位を確保。
■ 体重・生活リズム : 無理のない範囲で調整し、再発予防につなげる。
よくあるご質問
Q. どれくらい保存療法を続ければよい? → 目安は数週間~数か月。途中評価で方針を見直します。
Q. 注射だけで治りますか? → 症状により効果は異なります。リハビリや生活調整と併用することで良い経過を目指します。
Q. 仕事はいつ再開できますか? → 職種と症状で個別に判断。段階復帰(時間・業務内容の調整)を検討します。
あなたに合う治療の組み合わせを提案します。
塩川先生のひとこと
「まずは手術以外で良くできないか」を一緒に考えます。薬・リハビリ・注射の中から、いまのあなたに合う組み合わせを提案します。迷ったら、遠慮なくご相談ください。【プロフィール】
脊椎外科専門医 塩川 晃章(しおかわ てるあき)
「首・腰の痛み、手足のしびれに対する専門治療を担当。丁寧な問診と画像診断を組み合わせ、負担の少ない治療から手術までをわかりやすく提案します。」
対応手術 : 椎弓形成(切除)、TLIF/PLIF、BKP、腰椎椎間板ヘルニア摘出ほか。