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2025.08.22
【せぼねの教室】第3回 圧迫骨折の痛み、長引かせないコツ ― BKPが向く人・向かない人。
圧迫骨折の痛み、長引かせないコツ ― BKPが向く人・向かない人。
福岡市で整形外科・脊椎外科診療を行う南川整形外科病院の連載コラムです。骨粗鬆症性の「圧迫骨折」は、尻もちやくしゃみなど軽いきっかけでも起こり、痛みが長引く原因になります。本稿では、見逃しやすい症状、検査、保存療法と、経皮的バルーン椎体後弯矯正術(BKP : バルーンで椎体を整えて医療用セメントで支える処置)の適応・限界まで、患者さんにわかりやすく解説します。
監修 : 脊椎外科専門医 塩川 晃章(しおかわ てるあき) / 南川整形外科病院 | 福岡・整形外科・脊椎外科
Three key points
まず知っておきたい3つのポイント
■ 圧迫骨折は適切な診断と初期対応が大切。痛みを我慢しすぎると、円背(背中が曲がる)や体力低下につながります。■ 治療は保存療法が基本ですが、強い痛みで生活が大きく制限される場合はBKPが役立つことがあります。
■ BKPは万能ではありません。骨折の時期・形・全身状態により「向く人・向かない人」があります。骨粗鬆症治療の継続が再発予防の鍵です。
発症日が曖昧になりやすく、見逃されることも。
圧迫骨折とは? | 起こり方と症状
■ 胸椎~腰椎に多く、骨粗鬆症が背景にあることが一般的。■ 「尻もち」「くしゃみ」「荷物を持ち上げた」など軽い外傷でも発症。
■ 症状:局所の強い痛み、寝返りや起き上がりで増悪、背中が丸くなる/身長が低くなる。
■ 高齢者では発症日が曖昧になりやすく、見逃されることがあります。
受診のサイン | いつ専門医に相談すべき?
■ 強い背中・腰の痛みで起き上がれない、体位変換でズキッと痛む。
■ 安静にしても夜間痛が続く、鎮痛薬が効きにくい。
■ 脚のしびれ・力が入らない、排尿・排便の障害(※神経症状が疑われる場合は早急に受診)。
■ 痛みが長引いて背中が曲がってきた/活動量が落ちている。
診断の流れ | 問診→診察→画像検査
■ X線(レントゲン) : 椎体のつぶれ方(楔状化など)を確認。
■ MRI : 新鮮骨折か陳旧性かの判定、隠れ骨折の検出に有用。
■ CT : 骨折の広がりや後壁(脊柱管側)の損傷評価に有用。
■ 骨密度検査や血液検査 : 骨粗鬆症の評価。
治療の選択肢 | 保存→BKP/VPを適切に検討
保存療法 :
■ 鎮痛薬の調整、短期の安静と体幹コルセットの活用。
■ 血栓や肺合併症を避けるため、可能な範囲で早期離床・歩行。
■ リハビリ : 体位変換のコツ、痛くない起き上がり方、呼吸法、下肢筋力の保持。
■ 骨粗鬆症治療(食事・運動・薬物)の開始/見直し。
BKP(バルーン椎体形成)/VP(椎体形成) :
■ BKP : バルーンで潰れた椎体内を整えた後、医療用セメントで充填し安定化を図る処置。
■ VP : バルーンを使わずセメントを充填する処置。骨折のタイプや目的で選択。
BKPが「向く人」/「向かない人」
向く人(適応の一例) :
■ 発症早期~亜急性期の圧迫骨折で、強い痛みのため日常生活が著しく制限されている。
■ 保存療法を一定期間行っても痛みが強く、離床が進まない。
■ 椎体の扁平化が進行し、姿勢悪化や介護負担が大きい。
■ 全身状態が安定し、麻酔や処置に耐えられる。
向かない人(慎重/禁忌の一例) :
■ 後壁の大きな破綻を伴う破裂骨折で、骨片が脊柱管側へ突出している。
■ 感染(椎体炎)や出血傾向(抗凝固薬の調整が難しいなど)。
■ 陳旧性で高度に硬化し、形態改善の余地が乏しい場合。
■ 腫瘍性病変など、別の原因が疑われる場合(専門的評価が必要)。
BKPで期待できること/限界とリスク
■ 期待 : 痛みの早期軽減、離床・リハビリの促進、生活機能の回復。
■ 限界 : すべての方に同じ効果が出るわけではない。変形の完全な矯正は困難なことが多い。
■ 主なリスク : セメント漏出、隣接椎体の骨折、麻酔関連合併症など(頻度や対策は診療時に説明)。
リハビリ&日常ケア | 整形外科リハビリのコツ
■ 急性期 : 痛みが少ない体位(横向き・膝立て)を選び、寝返り・起き上がりは「体をひねらず丸太のように」。
→装具(コルセット)の正しい装着と、立ち上がり・椅子からの起立動作の練習。
■ 回復期 : 背筋群・殿筋・下肢筋を安全に鍛え、バランス訓練と転倒予防を行う。
→生活では過度の前屈・ひねり・重い荷物は避ける。手すりや杖の活用。
■ 骨粗鬆症対策 : 栄養(カルシウム・ビタミンD等)、日光・適度な運動、薬物療法の継続。
今のあなたに合う治療を、一緒に考えます。
塩川先生のひとこと
「起き上がれないほど痛い」「いつまでも良くならない」。そんな時は我慢せずご相談ください。保存療法とBKP、どちらが今のあなたに合うか、一緒に考えます。【プロフィール】
脊椎外科専門医 塩川 晃章(しおかわ てるあき)
「首・腰の痛み、手足のしびれに対する専門治療を担当。丁寧な問診と画像診断を組み合わせ、負担の少ない治療から手術までをわかりやすく提案します。」
対応手術 : 椎弓形成(切除)、TLIF/PLIF、BKP、腰椎椎間板ヘルニア摘出ほか。